最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)927号 判決 1950年7月12日
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差戻す。
理由
弁護人下光軍二上告趣意第二点一について。
原判決は、判示第一の事実を認定するに当り、(一)第一審公判調書中の被告人の供述記載と(二)被告人に対する司法警察官の尋問調書中の供述記載を証拠として採っている。当該判決裁判所の公判廷における被告人の自白は、憲法三八条三項にいわゆる「本人の自白」に含まれないことは判例の示すとおりである(昭和二三年(れ)一六八号、同年七月二九日大法廷、判例集二巻九号一〇一四頁)。しかしながら、第一審の公判廷における被告人の供述は、これと異り前記「本人の自白」に含まれるから、独立して完全な証拠能力を有しないので、有罪を認定するには他の補強証拠を必要とするのである。しかるに、本件においてはこれと司法警察官に対する被告人の供述記載(これも補強証拠を要する)とによって有罪を認定している。かように、互に補強証拠を要する同一被告人の供述を幾ら集めてみたところで所詮有罪を認定するわけにはいかない道理である。それ故に、原判決には所論の違法があり、論旨は結局理由があって破棄すべきである。従って、他の上告趣意に対しては判断を加えない。
よって、旧刑訴四四七条、四四八条ノ二、一項に従い、主文のとおり判決する。
この判決は裁判官齋藤悠輔の反対意見(前掲判決一〇一八頁以下参照)を除くの外裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)